残業の上限規制の施行時期に影響も

先の衆院解散により、働き方改革関連法案の国会提出が宙に浮いた形になっている。厚生労働省は、時間外労働に罰則付きの上限規制を設ける労働基準法改正を柱とした働き方改革を推進するための法整備を年内に行う方向で法案の作成作業を進めていた。しかし、法案提出を予定していた臨時国会の冒頭で衆議院が解散され、提出は見送りとなった。同省は、法案の早期国会提出を目指し準備を進めているが、法案の提出時期、さらに、改正法成立後の施行期日などについて先行きが見通せない状況になっている。

 働き方改革の実現に関しては、政府の会議が今年3月に「働き方改革実行計画」を決定し、また、労働政策審議会が今年6月、加藤厚労相に対し、週40時間を超える時間外労働について、罰則付きの上限規制を設けるなどの労働時間法制の整備、同一労働同一賃金に関する法整備などを相次いで建議した。そして、これらを踏まえ同審議会は8月下旬から、関係分科会・部会において、関連する法改正についての調査審議を開始した。

こうした中で厚生労働省は9月8日、働き方改革を実行するため、労働関係の8つの法律を一括改正することを内容とした「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案要綱」を同審議会に諮問した。同審議会は、諮問内容を所管する各分科会・部会で短期・集中的に検討を行い、同15日、厚生労働省案を「おおむね妥当と認める」とする答申を取りまとめ、加藤厚労相に提出した。答申を得た同省は、この時点では法案を次期国会に提出する方向で準備を進め、10月中にも提出し、年内の成立を期す青写真を描いていた。

しかし、9月28日に召集された臨時国会の冒頭で衆議院が解散され、法案の提出は見送りとなり、当初のスケジュール通りに運ばない状況になった。同省ではその後も法案の早期国会提出に向けて準備を進めているが、仮に年内に提出したとしても、衆参両院での十分な審議日程確保を考えると、今年中の成立は難しいとみられる。こうしたことから、法案提出が来年1月に始まる次期通常国会になることも予測され、その場合、国会での法案審議は平成30年度予算成立後となり、さらに時間を要することになる。

加えて、法案提出が次期通常国会となった場合には、法案要綱で示されている施行期日を見直す議論が出る可能性がある。法案要綱では、各改正法の施行期日については、月60時間を超える時間外労働に係る割増賃金率(50%以上)の中小企業への適用猶予廃止が平成34年4月1日、その他の改正は平成31年4月1日としている(ただし、雇用対策法の改正は公布日施行)。

これは、時間外労働の上限規制に関する労働政策審議会の先の建議において、改正法施行まで十分な準備期間を確保すること、また、施行期日は年度の初日からとすることが適当とされたことを踏まえたもの。このため、改正法成立が平成30年の年央近くまでずれ込む状況になると、31年4月1日施行に影響を及ぼすことも考えられる。

このように、今後、法案の国会提出及びその先の成り行きについては、国会情勢と相まって不透明な状況が見込まれる。

なお、今回の衆議院の解散により、前通常国会閉会時において継続審議扱いとなっていた「労働基準法等の一部を改正する法律案」(平成27年4月3日提出)は廃案になった。