「過労死」事案は労働時間の適正把握を実行

厚生労働省は、平成27年度の労災補償業務の運営に当たり留意すべき事項を都道府県労働局長に通達した。それによると、脳・心臓疾患事案の迅速処理に向け、労働時間を把握できる客観的資料がない場合には、パソコンによる作業履歴等の分析を行うなどにより労働時間を把握するとしている。また、精神障害事案については、請求書受付後1ヵ月の時点で調査の進捗状況を確認し、初動調査に遅れが認められる場合には、具体的な指示により迅速な調査を行い、的確な進行管理を徹底し長期未決事案を削減するとしている。
同省では、新年度の労災補償業務運営に当たっての重点事項を毎年度末に策定し、都道府県労働局に指示している。

27年度は、昨年の通常国会で「過労死等防止対策推進法」が成立し、施行されたことに関連して、脳・心臓疾患(過労死)事案及び精神障害事案に係る労災補償状況がマスコミ等で報道されることが多くなり、労災補償行政に関する国民の関心が高まっている状況に対応すべく、①脳・心臓疾患及び精神障害事案の長期未決事案の削減、②石綿関連疾患の更なる請求勧奨の実施、③業務上疾病等に係る的確な労災認定──を重点に推進することとしている(平27・2・13 労災発0213第2号)。

同省のまとめによれば、脳・心臓疾患に係る労災請求件数は、近年高止まりの状況にあり、最近5年間では、21年度767件、22年度802件、23年度898件、24年度842件、25年度784件となっている。また、精神障害の請求件数は、21年度1136件、22年度1181件、23年度1272件、24年度1257件、25年度1409件と増え続けている。こうしたことから、脳・心臓疾患及び精神障害事案については、従前の取組みに加え、的確な進行管理の徹底や労働時間の適正な把握に留意し、一層の迅速処理を期すとしている。

具体的な対応としては、特に精神障害事案については、請求書受付直後から遅滞のない初動調査を徹底するほか、請求書受付後1ヵ月を経過した時点で調査の進捗状況を確認し、初動の遅れが認められる場合は、具体的な指示に基づく進行管理を行う。

また、脳・心臓疾患事案において、タイムカード等労働時間が把握できる客観的な資料がないなどにより労働時間の把握が困難な事案については、監督担当部署と協議しつつ、事業場建物への入退館記録、パソコンによる作業履歴等の分析を行うなどにより、労働時間の迅速・適正な把握を行うこととしている。

このほか、業務上疾病等に係る労災認定で、法人役員の労働者性が争点となっている事案におけるその判断に当たっては、まずは商業登記簿により役員の選任状況や取締役会の設置状況の有無を把握したうえで、定款や取締役会の決議、取締役会規則その他の内部規定等から請求人が業務執行権を有するか否かを確認するとしている。