残業の上限規制も視野に年度内に計画策定
政府は、長時間労働の是正や同一労働同一賃金の実現など非正規雇用の待遇改善を中心に、「働き方改革」の具体策を検討する「働き方改革実現会議」(議長・安倍首相)を設置し、第1回会合をさる9月27日に開催した。会議では、長時間労働の是正、子育て・介護と仕事の両立など計9つのテーマを取り上げる。その中で焦点となるのが長時間労働の是正。“青天井”との指摘がある36協定による時間外労働に関し、「上限規制の導入」をどう結論するか注目される。会議は、今年度内に具体的な実行計画を策定する予定。
政府が今年6月に閣議決定した「ニッポン一億総活躍プラン」では、一億総活躍社会の実現に向けた横断的課題である働き方改革の方向として、「最大のチャレンジは働き方改革である。多様な働き方が可能となるよう、社会の発想や制度を大きく転換しなければならない」と明記している。その具体的な項目として、(1)同一労働同一賃金の実現、(2)長時間労働の是正、(3)高齢者の就労促進──が示された。
そして、同一労働同一賃金の実現については、非正規雇用の待遇改善を図るため、ガイドラインの策定等を通じ、不合理な待遇差として是正すべきものを明示し、その是正が円滑に行われるよう、労働関連法(労働契約法、パートタイム労働法、労働者派遣法)の一括改正等を検討し、関係法案を国会に提出するとされた。
また、長時間労働の是正に関しては、「労働基準法については、労使で合意すれば上限なく時間外労働が認められる、いわゆる36(サブロク)協定における時間外労働規制の在り方について、再検討を開始する」とされた。
今回設置された会議は、これらを踏まえ「働き方改革」の具体策を検討するもの。会議は、議長の安倍首相をはじめ、加藤働き方改革担当相、塩崎厚労相ら関係閣僚9人及び有識者(民間議員)15人で構成されている。民間議員には、榊原定征経団連会長、三村明夫日本商工会議所会頭、大村功作全国中小企業団体中央会会長、神津里季生連合会長の労使団体トップのほか、労働政策審議会の樋口美雄会長、同審議会労働条件分科会の岩村正彦分科会長も入った。
会議では、①同一労働同一賃金など非正規雇用の処遇改善、②賃金引上げと労働生産性の向上、③時間外労働の上限規制の在り方など長時間労働の是正、④雇用吸収力の高い産業への転職・再就職支援、人材育成、格差を固定化させない教育の問題、⑤テレワーク、副業・兼業といった柔軟な働き方、⑥働き方に中立的な社会保障制度・税制など女性・若者が活躍しやすい環境整備、⑦高齢者の就業促進、⑧病気の治療、子育て・介護と仕事の両立、⑨外国人材の受入れの問題──の9つのテーマを取り上げ、その具体策を検討することになっている。
その中で焦点となるのが、時間外労働の上限規制の在り方について。現行の労働基準法では、労使協定(36協定)を締結して、行政官庁に届け出た場合には、法定労働時間(1日8時間・1週40時間)を超えた時間外労働が可能となっている(法第36条第1項)。協定により延長できる時間外労働時間については、1ヵ月45時間、1年間360時間などの限度基準が告示で定められており、協定内容は、この基準に適合したものでなければならないと規定されている(同条第3項)。ただし、法第36条第3項には罰則はない。
また、限度基準で定める時間を超えて時間外労働をさせなければならない特別の事情が生じたときには、一定の事項を協定すれば限度基準を超えた時間外労働が可能で、特別の事情が生じたときの延長時間には上限の定めはない。さらに、建設業や自動車運転業務などについては、その業態・業務の特殊性から、限度基準が適用除外されている。
このような現行法の時間外労働規制については、「事実上青天井」といった指摘もあり、会議が、法による時間外労働の上限規制についてどのような方向性を打ち出すか注目される。
会議は、今後1ヵ月に1回程度会合を開き、平成28年度内に具体的な実行計画を取りまとめる予定。そして、政府はそれに基づき、次期通常国会にも関連法案の提出を目指すこととしている。