対象解雇の範囲や契約解消金の基準も検討

 厚生労働省は、解雇の金銭解決制度の創設に関し、法技術的な論点についての専門的な検討を行う「解雇無効時の金銭救済制度に係る法技術的論点に関する検討会」(座長・岩村正彦東京大学法学部教授)を設置し、第1回会合を6月12日に開催した。検討会では、昨年5月にまとめられた解雇無効時の金銭救済制度のあり方に関する専門家による検討会報告書等を踏まえ、法制化する場合の法技術的な論点を整理することとしている。第2回以降の会合では、関係団体などからのヒアリング等を行い、議論を進めて行く予定。

 いわゆる「解雇の金銭解決制度」の創設に関しては、昨年5月末に同省の「透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会」(座長・荒木尚志東京大学大学院法学政治学研究科教授)が、約1年半にわたる議論を経て報告書をまとめている。

同報告書の記載によれば、検討会では、解雇無効時における金銭救済制度として、労使各々による申立の仕組みを検討した。

労働者申立による制度の基本的な枠組みとしては、(1)解雇が無効であるとする判決を要件とする金銭救済の仕組み、(2)解雇を不法行為とする損害賠償請求の裁判例が出てきていることを踏まえた金銭救済の仕組み、(3)実体法に労働者が一定の要件を満たす場合に金銭の支払を請求できる権利を置いた場合の金銭救済の仕組み──の3つの手法について議論した。

その結果、(1)の手法については、「この手法によって金銭解決制度を創設することには依然として課題が多い」、(2)の手法については、「この手法によって金銭解決制度を創設することは困難」、(3)の手法については、「権利の法的性格や権利の発生要件、権利を行使した場合の効果等、法技術的にもさらに検討していくべき課題が多い」とし、制度の創設を具体的に明示するに至らなかった。

また、使用者による申立制度については、「使用者申立制度については、現状では容易でない課題があり、今後の検討課題とすることが適当」とした。

そのうえで、解雇無効時の金銭救済制度の必要性について、「解雇紛争についての労働者の多様な救済の選択肢の観点からは一定程度認められ得る」とし、「法技術的な論点や金銭の水準、金銭的・時間的予見可能性、現行の労働紛争解決システムに対する影響等も含め、労働政策審議会において、有識者による法技術的な論点についての専門的な検討を加え、更に検討を深めていくことが適当」とした。

その後同省は昨年12月27日、労働政策審議会労働条件分科会に報告書の内容を報告した。同分科会は報告を受けて議論した結果、「法技術的な論点についての専門的な検討について、さらに有識者による議論を行うべきではないか」とする提案を行った。それを受けて、新たな検討会が設置されることになったもの。

こうしたことから、今回の検討会は、解雇無効時の金銭救済制度に係る法技術的な論点を議論することになっている。

具体的には、先の報告書に記載された労働者申立による制度の基本的な枠組みの上記(3)の仕組みに関する法技術的論点には、①対象となる解雇、②労働者が金銭の支払を請求する権利、③使用者による金銭の支払(金銭の性質、バックペイ(解雇が無効な場合に民法第536条第2項の規定に基づき発生する未払い賃金債権に相当するもの)の発生期間)、④金銭的予見可能性を高める方策(金銭的予見可能性を高める方策の在り方、労使合意等の取扱い)、⑤時間的予見可能性を高めるための方策──などがある。

これらの論点には、考え方を整理するに当たって難しい点もあり、例えば、対象となる解雇の範囲に関しては、労働契約法第16条において無効とされる解雇(客観的合理性を欠き、社会通念上相当であると認められないもの)のほか、有期労働契約に係る雇止めや有期労働契約の期間中の解雇などをどのように考えるかといった問題がある。

また、金銭的予見可能性を高める方策に関しては、解雇された労働者が職場復帰せず契約終了に代わり受け取る解消金(解消対応部分)について、具体的な金銭水準の基準(上限、下限等)をどう設定するか、また、バックペイ分に限度額を設定するか否かなどの問題がある。

検討会は秋以降、関係団体などからのヒアリング等を行い議論を進める予定であり、早ければ来年にも検討結果を取りまとめるものとみられる。