労働時間の適正把握で新ガイドライン

厚生労働省は、長時間労働の抑制・過重労働による健康障害防止対策を一層強化する緊急対策を取りまとめ、今年から実施する方針を打ち出した。緊急対策では、労働時間の適正把握を徹底するため、新たなガイドラインを定めるとしている。また、違法な長時間労働等を複数の事業場で行う企業に対しては、全社的な是正指導を行う。さらに、複数の精神障害の労災認定があった場合には、企業本社に対して個別指導を行う。特に、過労自殺を含む事案については、改善計画を策定させ、1年間の継続的な指導を行うとしている。

 緊急対策は、①違法な長時間労働を許さない取組みの強化、②メンタルヘルス・パワハラ防止対策のための取組みの強化、③社会全体で過労死等ゼロを目指す取組みの強化──を3本柱としている。

違法な長時間労働を許さない取組みの強化としては、現在の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」(平13・4・6 基発第339号)を刷新する労働時間把握のための新たなガイドラインを策定する。新ガイドラインでは、労働者の実労働時間と自己申告した時間に乖離がある場合は、使用者は実態調査を行うこと、また、使用者の明示・黙示の指示による自己啓発等の学習や研修受講の時間は労働時間として扱うことなどを明確化する。

また、原則として事業場単位で行っている長時間労働に関する労働基準監督署の監督指導について、違法な長時間労働等を複数の事業場で行うなどの企業に対しては、企業幹部に長時間労働削減や健康管理、メンタルヘルス対策について指導し、その改善状況について全社的な立入調査を実施することとしている。

さらに、平成27年5月から実施している違法な長時間労働を繰り返す企業の企業名公表制度を強化する。同制度は、労働時間、休日、割増賃金に係る労働基準法違反があり、1ヵ月当たり100時間を超える時間外・休日労働が1事業場10人以上または4分の1以上の労働者に認められる実態が概ね1年間に3事業場以上ある場合、企業名を公表するもの。

新たな制度では、時間外・休日労働時間数の要件を「月100時間超」から「月80時間超」に拡大し、また、過労死等・過労自殺等で労災支給決定した場合も公表の対象とし、これらが1年間に2事業場以上に認められた場合、企業本社に対して指導を実施し、是正されない場合に公表する。

このほか、毎年1月から3月の間に実施している最低賃金の履行確保を重点にした監督等の機会に、36協定未締結事業場に対する指導を徹底するとしている。

メンタルヘルス対策では、複数の精神障害の労災認定があった場合には、企業本社に対して、パワハラ防止も含め個別指導を実施する。特に、過労自殺(未遂も含む)を含む事案については、改善計画を策定させ、1年間の継続的な指導を行う。

パワハラ防止対策では、メンタルヘルス対策に係る企業や事業場への個別指導等の際に、平成27年5月に作成した「パワハラ対策導入マニュアル」(28年7月改訂)等を活用し、パワハラ対策の必要性、予防・解決のために必要な取組みなどを含めた指導を行うこととしている。

加えて、過重労働による健康被害のリスクが高い労働者を見逃さないため、月100時間超の時間外・休日労働を行っている労働者の労働時間等の情報を事業者が産業医に提供することを義務化するとともに、過重労働等の問題のある事業場については、長時間労働者全員への医師による緊急の面接等の実施を都道府県労働局長が指示できる制度を整備する。

「過労死等ゼロ」を目指す取組みとしては、事業主団体に対して、労働時間の適正把握等について緊急要請を行うほか、労働者からの長時間労働等の問題について相談を受け付ける「労働条件相談ホットライン」を週7日(現行週6日)に拡充する。