合理的配慮の提供義務の具体的事例示す

来年4月施行の改正障害者雇用促進法により、事業主に義務付けられる「障害者が職場で働くに当たっての支障を改善するための措置」の具体例を示す指針の内容が決まった。指針は、業務指導や相談に関し担当者を定めること、また、肢体不自由者には、机の高さを調節するなどで作業を可能にする工夫を行うこと、体温調整しやすい服装の着用を認めること、精神障害者には、業務の優先順位や目標を明確にし指示を1つずつ出す、作業手順を分かりやすく示したマニュアルを作成する──などを例示するものとなっている。

一昨年の通常国会で成立した改正障害者雇用促進法は、障害者の権利に関する条約の批准に向けた対応として、雇用の分野における障害を理由とする差別的取扱いを禁止するとともに、事業主に、障害者が職場で働くに当たっての支障を改善するための措置を講ずることを義務付けている(合理的配慮の提供義務)。この改正規定の施行期日は、平成28年4月1日となっている。

また、障害を理由とする差別的取扱いの禁止及び合理的配慮の提供義務については、厚生労働大臣が、指針(「差別禁止指針」及び「合理的配慮指針」)において具体的な事例を示すことになっている。

厚生労働省は、改正法成立後、両指針の策定に向け、「改正障害者雇用促進法に基づく差別禁止・合理的配慮の提供の指針の在り方に関する研究会」(座長・山川隆一東京大学大学院法学政治学研究科教授)を設けて議論を行い、同研究会は、昨年6月に報告書をまとめた。その後、労働政策審議会障害者雇用分科会(分科会長・山川隆一同教授)において、同報告書を踏まえ、指針に盛り込む内容について具体的な検討を行った。

そして、その検討結果に基づき、同省はさる3月2日、同審議会(会長・樋口美雄慶應義塾大学商学部教授)に対して、両指針(案)について諮問した。諮問を受けた同審議会は、これを同審議会障害者雇用分科会で検討した結果、諮問案を「妥当」とする答申を取りまとめ、同日、塩崎厚労相に提出した。

指針の内容をみると、まず、差別禁止指針は、①募集及び採用、②賃金、③配置(業務の配分及び権限の付与を含む)、④昇進、⑤降格、⑥教育訓練、⑦福利厚生、⑧職種の変更、⑨雇用形態の変更、⑩退職の勧奨、⑪定年、⑫解雇、⑬労働契約の更新──の13項目について、差別に該当する例を示している。

具体的には、募集及び採用に関しては、「障害者であることを理由として、障害者を募集又は採用の対象から排除すること」、「募集又は採用に当たって、障害者に対してのみ不利な条件を付すこと」、「採用の基準を満たす者の中から障害者でない者を優先して採用すること」を掲げている。また、賃金に関しては、「障害者であることを理由として、障害者に対して一定の手当等の賃金の支払をしないこと」、「一定の手当等の賃金の支払に当たって、障害者に対してのみ不利な条件を付すこと」を掲げている。

次に、合理的配慮指針では、①合理的配慮の手続、②合理的配慮の内容、③過重な負担(改正法は、合理的配慮の提供の義務については、事業主に対して、「過重な負担」を及ぼす場合は除くとしている)、④相談体制の整備等──などが示されている。

合理的配慮の手続については、募集及び採用時においては、障害者の申出に基づき、募集・採用に当たって支障となっている事情の有無を確認し、確認された場合は、講ずべき合理的配慮について障害者と話合い、障害者の意向を十分に尊重し、講ずることとした措置の内容(申出のあった措置が過重な負担に当たると判断した場合には、当該措置を実施できない旨)を障害者に伝えるとしている。

また、採用後においては、労働者が障害者であることを雇入れ時までに把握している場合には、雇入れ時までに当該障害者に対して職場において支障となっている事情の有無を確認し、前記の話合いなどの手順を経て、合理的配慮を確定するとしている。なお、採用後においては、障害の状態や職場の状況が変化することもあることから、事業主は、必要に応じて定期的に職場において支障となっている事情の有無を確認することを挙げている。

合理的配慮の内容については、①視覚障害、②聴覚・言語障害、③肢体不自由、④内部障害、⑤知的障害、⑥精神障害、⑦発達障害、⑧難病に起因する障害、⑨高次脳機能障害──の障害の区分ごとに、募集及び採用時と採用後に分けて、多くの事業主が対応できると考えられる措置を例示している。

具体的には、募集及び採用時に関しては、「採用試験について、点字や音声等による実施や、試験時間の延長を行うこと」(視覚障害)、「面接の際にできるだけ移動が少なくて済むようにすること」(肢体不自由)、「面接時間について、体調に配慮すること」(内部障害、難病に起因する障害)などを掲げている。

採用後に関しては、「業務指導や相談に関し、担当者を定めること」(全障害区分に共通)、「出退勤時刻・休暇・休憩に関し、通院・体調に配慮すること」(全障害区分に共通)、「机の高さを調節すること等作業を可能にする工夫を行うこと」(肢体不自由)、「体温調整しやすい服装の着用を認めること」(肢体不自由)、「業務の優先順位や目標を明確にし、指示を1つずつ出す、作業手順を分かりやすく示したマニュアルを作成する等の対応を行うこと」(精神障害)などを掲げている。