ハラスメント事案は関係者の調査を徹底
厚生労働省は、平成30年度の労災補償業務の運営上の留意事項を都道府県労働局長に通達した。それによると、精神障害事案でパワハラやセクハラの事案については、請求人が主張する行為者を含む関係者からの聴取等を省略せず必要な調査の実施を徹底することを示している。また、精神障害事案の調査の過程において、請求人に精神障害の既往歴があることを把握した場合は、当該精神障害が治ゆの状態にあるかどうか適切に判断したうえで、労災請求の対象となった精神障害の業務上外を判断するとしている。
同省では、新年度の労災補償業務運営に当たっての重点事項を毎年度末に策定し、都道府県労働局に指示している。
過労死等(脳・心臓疾患及び精神障害)を巡る国民の関心が高まっている中、政府が進める「働き方改革」では、長時間労働の是正が大きな柱になっている。労災補償行政についてみると、ここ数年の過労死等に係る労災請求件数は、平成24年度2099件、25年度2193件、26年度2219件、27年度2310件、28年度2411件と年々増え続けている。
これらを踏まえ、「働き方改革」への的確な対応として、労災補償行政においては、過労死等の労災請求事案に引き続き適切に対応することが必要であるとの認識の下、30年度は、①過労死等事案などの的確な労災認定、②迅速かつ公正な保険給付を行うための事務処理の徹底、③労災補償業務の効率化と人材育成──を重点的に推進するとしている。
具体的には、過労死等事案に係る的確な労災認定に向けた調査上の留意点として、被災労働者の労働時間の把握に当たっては、タイムカード、事業場への入退場記録、パソコンの使用時間の記録等の資料を可能な限り収集するとともに、上司・同僚等からの聴取等を踏まえて、始業・終業時刻及び休憩時間を詳細に特定したうえで、実労働時間を的確に把握するとしている。なお、その際、休憩時間とされている時間であっても、使用者の黙示も含む指揮命令に基づき労働者が業務に従事している、または手待時間と同様の実態が認められるなど労働からの解放が保障されていない場合には、労働時間として算入するとしている。
次に、精神障害事案では、調査の過程で請求人に精神障害の既往歴があることを把握した場合には、疾病名、発病の時期及び療養の経過等の調査を行ったうえで、当該精神障害が治ゆ(症状固定)の状態にあるか否かについて、専門医等の意見により適切な判断を行うとしている。
その結果、治ゆしていると判断される場合には、労災請求の対象となった精神障害を新たな発病として業務上外を判断するとしている。他方、治ゆの状態に至っていない場合には、悪化の時期、悪化後の疾病名、悪化前の特別な出来事の有無及び悪化前後の療養の経過等を調査して、当該悪化の業務起因性を判断するとしている。
また、嫌がらせ・いじめ(パワハラ)やセクシュアルハラスメントの事案については、関係者が相反する主張をする場合があるところ、請求人が主張する行為者を含む関係者からの聴取等を省略せず必要な調査の実施を徹底することを示している。