待遇差の内容等の説明を事業主に義務付け

労働政策審議会(会長・樋口美雄慶應義塾大学商学部教授)は去る6月16日、塩崎厚労相に対し、同一労働同一賃金に関する法整備を建議した。建議は、昨年末に政府が示した「同一労働同一賃金ガイドライン案」を確定した後のガイドラインの実効性を担保するため、事業主に対し、非正規労働者が求めた場合には正規労働者との待遇差の内容等を説明する義務を課すなどの法改正を提案した。厚生労働省は、建議を踏まえ、パートタイム労働法、労働契約法、労働者派遣法の改正案を作成し、今年中にも国会に提出する方針。

 同省では、今年3月に決定した「働き方改革実行計画」を踏まえ、同審議会に労働条件分科会・職業安定分科会・雇用均等分科会同一労働同一賃金部会(部会長・守島基博学習院大学教授)を新たに設置した。部会では、実行計画が示した不合理な待遇差の是正を求める労働者が裁判で争える根拠となる法整備について審議を重ね、報告書をまとめた。建議は、それに基づくもの。

建議は、①労働者が司法判断を求める際の根拠となる規定の整備、②労働者に対する待遇に関する説明の義務化、③行政による裁判外紛争解決手続の整備等──の3項目について、パートタイム労働法、労働契約法、労働者派遣法の規定を改正することを提案している。

まず、上記①について、短時間労働者・有期契約労働者に関しては、現行法における正規雇用労働者とこれら非正規雇用労働者との間の待遇差の合理性を判断する際の3つの考慮要素(「職務内容」、「人材活用の仕組み」、「その他の事情」)について、「その他の事情」の中から、新たに「職務の成果」、「能力」、「経験」を例示として明記することが適当としている。

さらに、短時間労働者については現行法で「職務内容」及び「人材活用の仕組み」が同一である場合の差別的取扱いを禁止している「均等待遇規定」を、有期契約労働者も対象とするよう求めている。また、比較対象となる正規雇用労働者について、現行パートタイム労働法・労働契約法を改め、「同一の使用者に雇用される正規雇用労働者」とするのが適当とした。

派遣労働者に関しては、「派遣先の労働者との均等・均衡による待遇改善」または「労使協定による一定水準を満たす待遇決定による待遇改善」のいずれかを派遣元事業主が選択して実施する新たな制度を提案している。

新制度の仕組みは、派遣先の労働者との均等・均衡方式は、派遣労働者と派遣先労働者の待遇差について、短時間労働者・有期契約労働者と同様の均等待遇規定・均衡待遇規定を設けたうえで、当該規定によることとし、派遣先に対し、派遣先の労働者の賃金等の待遇に関する情報を派遣元事業主に提供することを義務付ける。また、派遣元事業主は、派遣先からのこの情報提供がない場合は、労働者派遣契約を締結してはならないこととする。

一方、労使協定による一定水準を満たす待遇決定の方式は、派遣元事業主が、(1)同種の業務に従事する一般の労働者の賃金水準と同等以上であること、(2)段階的・体系的な教育訓練等による派遣労働者の職務の内容・職務の成果・能力・経験等の向上を公正に評価し、その結果を勘案した賃金決定を行うこと、(3)賃金以外の待遇についても、派遣元の正規雇用労働者の待遇と比較して不合理でないこと──の要件を満たす書面協定を過半数労働組合または過半数代表者と締結し、当該協定に基づいて待遇決定を行うとした。

次に、上記②については、現行パートタイム労働法が事業主に対し義務付けている特定事項(昇給・賞与・退職手当の有無)に関する文書交付等による明示、雇入れ時の待遇内容等の説明、労働者が求めた場合の待遇決定等に際しての考慮事項に関する説明──を有期契約労働者もその対象とし、加えて、短時間労働者・有期契約労働者が求めた場合には、正規雇用労働者との待遇差の内容やその理由等を説明する義務を事業主に課すことが適当とした。さらに、説明を求めたことを理由とする不利益取扱いを禁止するとしている。

また、派遣労働者についても、これらの措置を派遣元事業主に課すことを求めている。

このほか、上記③に関しては、現行パートタイム労働法における事業主に対する報告徴収・助言・指導等の行政による履行確保措置について、有期契約労働者についても、短時間労働者と併せて同法に諸規定を移行・新設して対象とするとともに、労働局長による紛争解決援助などの行政ADR(裁判外紛争解決手続)が利用できるようにすることが適当とした。

また、現状では行政による履行確保措置の対象となっていない均衡待遇規定についても、雇用形態が非正規であることを理由とする不支給など解釈が明確な場合は同措置の対象とするのが適当としている。