労働者の健康上必要なら臨時健診を指示
厚生労働省は、メンタルヘルス対策の推進として、今年度から新たな取組みを実施する。主な内容は、精神障害に関する労災認定が行われた事業場に個別指導を実施し、その結果、精神障害の再発防止のため継続的な改善指導が必要と認められる場合は、安衛法に基づく衛生管理特別指導事業場に指定する。また、長時間労働を行う労働者に対して過重労働による健康障害の防止対策が行われず、労働者の健康保持のために必要があると認められる事業場に対しては、労働局長が、事業者に対して、臨時の健診の実施を指示する。
同省がメンタルヘルス対策の推進でこうした取組み強化に踏み切った背景には、精神障害に関する労災請求・支給決定件数が増加傾向にあり、また、大企業において過労による自殺事案が繰り返し発生するなど、過労死等の防止に対する社会的要請がかつてなく高まっていることがある。
このため同省では昨年12月、「『過労死等ゼロ』緊急対策」を決定し、①違法な長時間労働を許さない取組みの強化、②メンタルヘルス・パワハラ防止対策のための取組みの強化、③社会全体で過労死等ゼロを目指す取組みの強化──を打ち出した。
今回の新たな取組みは、同緊急対策を踏まえたもので、実施事項は、①精神障害に関する労災支給決定が行われた事業場及び企業の本社事業場に対するメンタルヘルス対策の特別指導の実施、②違法な長時間労働が認められる等の事業場に対するメンタルヘルス対策の指導の充実、③パワーハラスメントの予防・解決に向けた周知啓発の徹底、④長時間労働等によりハイリスクな状況にある労働者を見逃さない取組みの徹底──となっている。
具体的には、上記①の取組みとしては、精神障害に関する労災支給決定が行われた事業場に対して、メンタルヘルス対策を主眼とした個別指導を実施する。そして、その指導結果等を勘案し、精神障害の再発防止を図るための総合的かつ継続的な改善の指導が必要と認められる場合には、当該事業場を、労働安全衛生法第79条に基づき、衛生管理特別指導事業場に指定し、メンタルヘルス対策に係る取組みの改善を指示する。
また、傘下事業場において、概ね3年間に、精神障害に関する労災支給決定が2件以上行われた企業には、本社事業場に対して、メンタルヘルス対策を主眼とした個別指導を実施する。加えて、その労災支給決定に過労自殺(未遂を含む)に係るものが含まれている場合には、当該企業の本社事業場を、衛生管理特別指導事業場に指定し、メンタルヘルス対策に関する全社的な改善を指導する。
なお、衛生管理特別指導事業場の指定を受けた事業場は、事業場の安全衛生上の課題または改善点、改善計画の到達目標及び目標を達成する上での具体的な取組み事項、改善計画事項ごとの工程表などを盛り込んだ安全衛生改善計画を作成し、改善措置を講ずることが求められる。
上記②の取組みとしては、時間外・休日労働時間数が1ヵ月当たり80時間を超える等の事業場に対する監督指導等において、ストレスチェック制度を含むメンタルヘルス対策に関する法令の遵守状況を確認する。さらに、違法な長時間労働や過労死等が認められた場合には、産業保健総合支援センターのメンタルヘルス対策の専門家(メンタルヘルス対策促進員)による訪問指導の受入れについて、強く勧奨を行うこととしている。
上記④の取組みとしては、事業場において、長時間労働を行う労働者に対して、過重労働による健康障害の防止対策が講じられていない場合で、労働者の健康を保持するため必要があると認められるときには、都道府県労働局長が、事業者に対して、労働安全衛生法第66条第4項に基づき、長時間労働者全員への医師による臨時の健康診断として問診(緊急の面接)を実施するよう指示する。