過労死等事案は実労働時間を的確に把握

厚生労働省は、平成29年度の労災補償業務の運営上の留意事項を都道府県労働局長に通達した。それによると、過労死等事案の労働時間把握では、タイムカード、PCの使用時間の記録等の客観的な資料を可能な限り収集し、始業・終業時刻を詳細に特定したうえで、被災労働者の実労働時間を的確に把握するとしている。また、脳・心臓疾患において、業務の過重性の判断に当たり労働時間だけでは業務と発症との関連が評価できない場合は、不規則勤務など労働時間以外の負荷要因の評価に十分留意することを示している。

 同省では、新年度の労災補償業務運営に当たっての重点事項を毎年度末に策定し、都道府県労働局に指示している。

それによると、過労死等(脳・心臓疾患事案及び精神障害事案)に係る労災請求件数はここ数年2100件以上となっている状況の下、過労死等の労災請求事案をめぐる国民の関心が高く、とりわけ過労死等事案の発生を防止するための取組強化に対する社会的要請が強まり、迅速かつ的確な労災認定、今年1月に策定された「過労死等ゼロ」緊急対策が確実に実施されるよう、労災補償行政と監督・安全衛生行政との緊密な連携が強く求められているとしている。そのうえで、29年度は、①過労死等事案に係る的確な労災認定と長期未決事案の発生防止、②労災補償業務の迅速・適正な事務処理の徹底、③労災補償業務の効率化と人材育成──を重点的に推進するとしている。

具体的には、過労死等事案に係る的確な労災認定に向けた調査上の留意点として、被災労働者の労働時間の把握に当たっては、タイムカード、事業場建物への入退場記録、パソコンの使用時間の記録等の客観的な資料を可能な限り収集するとともに、上司・同僚等からの聴取等を踏まえて、事実関係を整理・確認し、始業・終業時刻及び休憩時間を詳細に特定したうえで、被災労働者が実際に労働していると合理的に認められる時間を的確に把握するとしている。なお、その際、事業場において休憩時間とされている時間であっても、労働者が業務に従事しているまたは手待時間と同様の実態が認められる場合等は、労働時間として算入すべきことに留意するとしている。

また、脳・心臓疾患事案における業務の過重性の判断に当たって、労働時間だけでは業務と発症との関連性が強いと評価できない場合は、労働時間に加えて、不規則な勤務や拘束時間の長い勤務等の負荷要因について評価したうえでの適正な総合判断を徹底する。

精神障害事案であって、地方労災医員協議会精神障害等部会の意見を徴する事案については、都道府県労働局が、認定基準に基づく適正な医学的意見の徴取方法について、労働基準監督署に周知し、適切な指示を行うとしている。また、発症日が明らかでない事案や既往歴のある事案等、調査に当たって困難が予想される事案については、必要に応じあらかじめ地方労災医員に調査上の留意点について助言を求める等により、効率的な事案処理を図る。

このほか、労災補償業務の迅速・適正な事務処理に関して、第三者行為災害で請求人が自賠責保険等の支払いを労災保険給付より先行することを希望する場合であっても、労災保険の支給決定の調査結果がまとまった時点などに請求人の意向を確認すること、また、給付基礎日額の算定に当たっては、割増賃金の算定基礎に算入すべき手当が含まれているかどうかについて、就業規則等により確認することに加え、手当の算定根拠を詳細に確認するなどとしている。