まずは不当な賃金差例示した指針策定へ

  •  厚生労働省は3月23日、我が国における「同一労働同一賃金」の実現に向けた具体的方策について検討する「同一労働同一賃金の実現に向けた検討会」(座長・柳川範之東京大学大学院経済学研究科教授)をスタートさせた。検討会では、EU諸国の制度等も参考としつつ、正当でないと認められる賃金差の事例を示したガイドラインを策定することになっている。そして、「同一労働同一賃金」の実現を図るために必要な法的見直しなどに向けた考え方を整理し、今後の方向性を示すことを目指し検討を進める予定。
  •  この検討会は、安倍首相が議長を務める「一億総活躍国民会議」の第5回会議(平成28年2月23日)において、首相が、「同一労働同一賃金」の実現に関して指示したのを受けて設置された。

    首相はその中で、非正規雇用労働者の待遇改善としての「同一労働同一賃金」の実現について、「我が国の雇用慣行には十分に留意しつつ、同時に躊躇なく法改正の準備を進め」ること、また、「どのような賃金差が正当でないと認められるかについては、政府としても、早期にガイドラインを制定し」ていくことを表明した。

    「同一労働同一賃金」とは、一般に、同じ労働に対して同じ賃金を支払うべきという考え方で、EU諸国においては、性別・人種などの個人の意志・努力で変えられない属性等を理由とする差別的取扱いを禁止する原則として確立してきた概念。一方、我が国では、年齢・勤続年数、雇用形態などを基本に据えた賃金制度を採用する企業が多く、こうした我が国独特の雇用慣行が、正規労働者と非正規労働者の賃金格差の要因になっている。

    また、政府が、新たに検討会を設けて「同一労働同一賃金」の実現に向けた検討を開始した背景には、昨年9月、「労働者の職務に応じた待遇の確保等のための施策の推進に関する法律」(職務待遇確保法)が成立したことがある(本誌1873号特集参照)。

    同法(平成27年9月16日施行)は、「労働者が、その雇用形態かかわらずその従事する職務に応じた待遇を受けることができるようにすること」を基本理念に掲げている(法第2条第1号)。また、「政府は、労働者の職務に応じた待遇の確保等のための施策を実施するため、必要な法制上、財政上又は税制上の措置その他の措置を講ずる」と規定している(法第4条)。

    我が国の現行法規には、「同一労働同一賃金」を直接規定したものはなく、それに関係する制度としては、パートタイム労働法第9条のいわゆる「均等待遇」に関する規定、同法第8条及び労働契約法第20条のいわゆる「均衡待遇」に関する規定がある。

    パートタイム労働法第9条は、通常の労働者と同視すべき短時間労働者については、短時間労働者であることを理由とした賃金の決定などでの差別的取扱いを禁止しており、同第8条は、短時間労働者と通常の労働者との待遇の相違は、職務内容、人材活用の仕組み及び運用その他の事情を考慮して、不合理であってはならないとしている。

    また、労働契約法第20条は、有期契約労働者と無期契約労働者の労働条件の相違は、職務内容、配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理であってはならないとしている。

    検討会は、「同一労働同一賃金」の実現に向けた具体的方策について、その論点を整理したうえで、①EU諸国における制度の現状と運用状況、②日本の制度の現状と課題、日本企業の賃金の実態と課題、③日本とEUにおける雇用形態間の賃金格差に影響を与える諸条件の違い、④ガイドラインの策定、必要な法的見直し等に向けた考え方の整理──を中心に検討を進めていく予定。

    その中で焦点となるのが「ガイドライン」の策定で、ガイドラインに盛り込まれると考えられる不当な賃金差の事例については、その先の法改正の方向性と相まって議論することになるとみられ、成り行きが注目される。

    同省では、検討会を月に1~2回程度開催し、「早期のガイドライン策定を目指したい」(職業安定局派遣・有期労働対策部企画課)としている。