解雇の金銭解決制度の創設は結論先送り

解雇の「金銭解決制度」について検討していた厚生労働省の「透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会」(座長・荒木尚志東京大学大学院法学政治学研究科教授)が報告書をまとめた。報告書は、解雇無効時における金銭救済制度について、労働者申立制度、使用者申立制度とも具体的な制度の方向性を明示するには至らなかった。そして、制度の必要性について、「一定程度認められ得る」としながらも、「労働政策審議会において、更に検討を深めていくことが適当」とし、先送りする形となった。

 裁判で「解雇無効」とされた労働者に対して、企業が一定の金銭を支払ってトラブルを解決する制度の創設を巡っては、これまで紆余曲折があった。平成14年12月に労働政策審議会は、労働基準法を改正して解雇の金銭解決制度を創設するよう提案した。しかし、法案作成段階において労使の意見が対立し、制度創設は改正法案に盛り込まれなかった。

その後、平成18年12月に同審議会が提出した「今後の労働契約法制及び労働時間法制の在り方」に関する答申では、「解雇の金銭的解決については、労働審判制度の調停、個別労働関係紛争制度のあっせん等の紛争解決手段の動向も踏まえつつ、引き続き検討することが適当」としていた。

そして、「『日本再興戦略』改訂2015」(平成27年6月30日閣議決定)において、「解雇無効時における金銭救済制度の在り方(雇用終了の原因、補償金の性質・水準等)とその必要性を含め、予見可能性の高い紛争解決システム等の在り方についての具体化に向けた議論の場を直ちに立ち上げ、検討を進め、結論を得た上で、労働政策審議会の審議を経て、所要の制度的措置を講ずる」とされた。

これを踏まえて厚生労働省は平成27年10月に検討会を設け、約1年半にわたって議論を行い、その報告書がまとめられた。

検討会では、解雇無効時における金銭救済制度として、労働者による申立の仕組みと使用者による申立の仕組みを検討した。労働者申立制度の基本的な枠組みについては、①解雇が無効であるとする判決を要件とする金銭救済の仕組み、②解雇を不法行為とする損害賠償請求の裁判例が出てきていることを踏まえた金銭救済の仕組み、③実体法に労働者が一定の要件を満たす場合に金銭の支払を請求できる権利を置いた場合の金銭救済の仕組み──の3つの手法について議論した。

報告書は、それぞれの手法に関する議論の過程で出された主な意見を併記し、結論として、①の手法については、「この手法によって金銭解決制度を創設することには依然として課題が多い」、②の手法については、「この手法によって金銭解決制度を創設することは困難」、③の手法については、「権利の法的性格や権利の発生要件、権利を行使した場合の効果等、法技術的にもさらに検討していくべき課題が多い」とし、制度の創設を具体的に明示するに至らなかった。

一方、使用者申立制度については、労働者申立の基本的な枠組みの検討を踏まえつつ、労使双方の予見可能性を高めるとともに、労働者保護を図るという観点からどのような仕組みが考えられるか検討している。その結果、「使用者申立制度については、現状では容易でない課題があり、今後の検討課題とすることが適当」とした。

そして、解雇無効時の金銭救済制度の必要性について、「解雇紛争についての労働者の多様な救済の選択肢の観点からは一定程度認められ得る」としたうえで、「法技術的な論点や金銭の水準、金銭的・時間的予見可能性、現行の労働紛争解決システムに対する影響等も含め、労働政策審議会において、有識者による法技術的な論点についての専門的な検討を加え、更に検討を深めていくことが適当」としている。

同省では、報告書の内容を踏まえ、労働政策審議会での検討を早ければこの夏にも開始する予定。